異本 殺生石

「ああいういじめってさ、そりゃやる方が悪いんだけど。けど、さっき尾崎さんが言ってたように、福島の子たちも自分で壁を作っちゃってるような感じもあるじゃない?一緒にカラオケでもやって騒げば、お互い距離も縮まるかな、って思うのよ。それで尾崎さんにはね……」
「ようし、分かった。みなまで言うな」
 陽菜は右腕を腕まくりしながら言う。
「あたしは嫌だって言う奴をぶっとばせばいいんだな?任しとけ、そういう事なら……」
「違うわよ!暴力はいけません!」
「へ?違うのか?」
「尾崎さんには出席して場を盛り上げて欲しいのよ。もう何人か誘ったんだけど、尾崎のアネさんが出るなら、って返事がけっこうあったのよ」
「そうか!よし、任しとけ!あたしが最初に歌ってやるよ。あたしの後なら、たいていの音痴は自信持って歌えるぜ」
「あはは、それ自慢になってないわよ」
「けど、委員長、なんで急にそんな事考えた?」
「ううん、先生たちはね、そのうち尾崎さんが腕っ節で何とかしてくれると思ってるみたいなのよね。あたしも言われたのよ、受験が近いんだから下手に首突っ込んで内申書に響くような事はしない方がって。でも、それって何か違うと思うのよ」
「違うって?」
「自分じゃない、他の誰かが頑張って何とかしてくれる、それをじっと待ってる……それってやっぱりなんか違うんじゃないかって。まあ、あたしに出来る事だって尾崎さん以上にちっぽけな事だけどね」
「はあ……委員長、ひょっとして将来政治家かなんか目指してんのか?」
「やあねえ!そんな大げさな事じゃないわよ。まあ、そういうわけだから、パーティ来てくれる?」
「任しとけ、女に二言はない!」
「ありがと!じゃあ、日時が決まったらあたしから連絡するね」
「おう!じゃあな」