異本 殺生石

「ところで、さっき、そうでもないって言いましたね。明雄さん。いまどきフロッピーなんて骨董品どこで使ってるんです?」
 ソファに座った明雄に玄野が訊いた。明雄はいたずらっぽく微笑んで答えた。
「この日本国の中枢さ。霞が関の官庁じゃ、まだフロッピーディスクのパソコンを使っている役所は多いよ」
「ええ!ほんとですか?」
「ああ。役所は予算がきびしいからね。僕のオフィスで使っているパソコンも最低10年前のモデルだよ。それでフロッピーがどうかしたのかい?」
 ここで陽菜と玄野は顔を見合わせて、しばし考え込んだ。あの不思議な少女の事を話すべきだろうか?いや、そもそも話して信じてもらえるだろうか?明雄はそんな二人の様子を怪訝そうに見ていた。
 その気まずい沈黙を破ったのは三人のうちの誰でもなかった。二階からリビングへ通じる階段の途中からその声は低く静かに響いた。
「あたしの腕のマークを見たのね?」
 そこには階段の手すりに寄りかかるようにして、あの少女がまだ少し辛そうな様子で立っていた。陽菜は急いで立ち上がり彼女のそばに駆け寄って肩を支えた。少女はまだ少しふらつく足取りで階段を降り、崩れ落ちるようにソファに身を沈めた。それから彼女は、あらためて三人の顔を見まわしながら言った。
「あれはFD症候群という病気の印」
 陽菜は昭雄の目をのぞきこんだ。だが昭雄もそんな病気の名前は知らないように、小さく小刻みに首を横に振る。それを見た少女は陽菜たちが考えている事を察した様子で言葉を続けた。
「あなたたちが知っているはずはないわ。これは22世紀の遺伝病だから」
「へ?今22世紀って言った?ちょ、ちょっと待ってよ。じゃあ、あんたは……」
 そこで絶句した陽菜の後を引き取るように金髪の少女は言った。
「そう。あたしは未来人。あなたたちから見ればね。あたしは2101年からタイムマシンで逃げて来たの、この時代へ」