明雄はリモコンで次々にチャンネルを変えた。ニュース番組は全て、福島第一原発に人がいると報じていた。明雄は陽菜にやっと顔を向けて言った。
「新聞は、ここ何日かの新聞は残ってるか?」
「あ、うん。資源ごみ回収は明日だから、二週間分ぐらいあるよ」
「それを持ってきてくれ。それと、おまえのパソコンを貸してくれ」
「うん、じゃあ、あたしの部屋へ入ってて」
 それから二人は陽菜の部屋でパソコンをネットにつなぎ、明雄は床に並べた新聞をすさまじい速さで読みだした。そして十分ほどして顔を上げ、信じられないという表情でつぶやいた。
「間違いない……微妙にだが、歴史が変わっている」
 明雄に指示されてインターネットで検索しまくっていた陽菜にもそれは分かった。
 フーちゃんとの時間旅行に出発する前の、陽菜たちが知っている歴史では、福島第一原発は事故発生三日目の水素爆発の後、全職員が退避して無人になり、そのままなす術もなく原子炉の暴走と爆発を繰り返したはずだった。
 放射能汚染の状況も変わっていた。元の歴史では第一原発から半径80キロ以内は人が近づく事も出来ない高濃度汚染地帯になり、特に30キロ圏内はそこに一時間もいれば確実に命を落とすほどの死の土地になっていたはずだった。
 だが、時間旅行から戻ってきたこの歴史では違っていた。事故発生後、水素爆発の後も原発内部には50人以上の職員が決死の覚悟で残り、それ以上の原子炉の暴走を食い止めようと二カ月近くも原発内部の建物に踏みとどまっていた。彼らは「フクシマ50」と呼ばれて、外国のマスコミからも称賛の的にさえなっていた。
 放射能汚染もまた、警戒区域という名の事実上の立ち入り禁止区域は原発から半径20キロに変わっていた。その外でも部分的に避難が指示された地域はあったが、陽菜たちが知っていた歴史よりはるかに範囲は小さかった。また応援のための作業員が何百人も交代で原発内部に出入りしている事から考えて、警戒区域の中でさえ短時間で確実に死亡するほどの汚染濃度ではないようだった。