陽菜と明雄がアベのタイムマシンから降り立ったのは、フーちゃんと一緒に時間旅行へ出発したあの時間だった。アクシデントで時間旅行へ言ってしまった過去の人間は、同じ時間同じ場所へ戻すのが決まりなのだとアベは言った。そしてアベは芝居がかった動作で手を振ってタイムマシンの扉を閉め、たちまち空中へと消えて行った。
 何もかもが夢のように感じられた。明雄と一緒に家に入ると、中は確かに出発する以前のまま、何一つ変わっていなかった。玄野がもうそこにいない事を除けば。
 明雄は力なくリビングのソファに体を投げ出すように沈み込み、陽菜は急に猛烈な喉の渇きを感じた。
「兄さん。ウーロン茶飲む?あたし、喉がカラカラ」
「ああ、そうだな。頼むよ」
 陽菜が冷蔵庫からペットボトルを取り出し、コップに注いでいる間に明雄は所在無げにテレビのスイッチを入れた。ちょうど朝のニュース番組の時間帯で、女子アナの声が流れて来た。ソファの横のサイドテーブルまで陽菜がコップを二つ運んできた瞬間、明雄がけたたましい勢いでソファから立ち上がった。テーブルに乗り出すような格好で食い入るようにテレビの画面を見つめ、そして叫んだ。
「そんな馬鹿な!」
 陽菜は驚いて危うくコップの中身を床にぶちまけるところだった。
「何よ、兄さん!びっくりしたじゃない」
 だが明雄は陽菜の方に目もくれず、両目をいっぱいに見開いてテレビの画面に釘付けになっていた。そして今度は夢でも見ているかのような口調でつぶやいた。
「馬鹿な……福島第一原発の中に……人がいる!」
「えっ?!」
 陽菜も仰天してコップをテーブルに置き、明雄と同じ方向に視線を向ける。テレビの画面には荒い画質の映像が映っていて、白っぽいレインコートのような服に全身を包んだ男たちが動きまわっている様子が見えた。女子アナの声が流れる。
「事故発生以来、原発に留まって必死の作業を続けている職員の疲労の色は濃く、原子炉の冷却は一進一退の状況が続いており……」