「そう。一つ一つはちっぽけで些細な改変だとしても、それが短期間に連続していくつも起こったらどうか?本当に歴史の大勢は変わらないか?実はその点に関しては22世紀の科学理論でも決着はついていない。だから私のようなタイムパトロールが存在している」
「フーちゃんのやった事、じゃなくて、やろうとしてた事はどうなの?」
 また陽菜が尋ねた。
「あれは些細でちっぽけな変化だろうね。彼女たちが1960年の日本で放射能テロを計画したのは、20世紀の日本人に原子力の持つリスクを警告するためだったそうだ。日本で原子力の商業利用が始まったのは1960年代だったからね。あの鳥羽上皇に放射性セシウムの塊を持たせたのも、予定外の時代での苦し紛れのそういう行動だったのだろう。だが、たとえ成功していたとしても、それで福島原発事故が防げたとは思えない。1960年代には急速な工業化の副作用として環境汚染が起こり、様々な悲惨な公害病が全国で発生していた。有名なところだけで、水俣病、新潟水俣病、四日市喘息、イタイイタイ病。名前もつかない健康被害はもっとあったはずだ。そこに放射線障害が加わったところで原因不明の公害病として片づけられた可能性が高い。仮に放射性物質が原因だと判明したとしても、その出所を明かせない以上、いや、明かしたところで誰も信じないだろうから、そのまま忘れ去られただろう。その後の日本の経済発展の歴史がおおむね同じなら、やはりそれでも原子力発電所は次々に建設されただろう」
「歴史はけして変えられないって事?」
「細かい部分で改変する事は不可能ではないかもしれない。例えば、福島県のあの場所に原発が出来る未来は変えられたかもしれないね。だが、あの原発事故が起きるのが福島県ではなく、たとえば宮城県や茨城県のどこかになれば、それはより良い未来と言えるのだろうか?あのフーちゃんという少女にとってはその答はイエスかもしれない。だが、日本人全体、あるいは世界全体にとってはどうだろうか?」
 また昭雄が真剣な表情で質問する。
「では、タイムマシンは何のためにあるんです?」