「でも、フーちゃんは人体実験をされていたと言ってたわよ!」
「FD症候群の患者は、むしろ放射線に対する耐性は普通の人間よりずっと高い。普通の人間の数倍の放射線に耐えられる。それを研究するために、彼女たちに医学的実験に協力してもらっている。少なくとも、我々はそう思っていた。だが、それを彼女たちFD症候群の患者自身がどう感じていたか、それを我々は勘違いしていたようだね。それにもし本当に彼女たちが放射能に高い耐性を持つように遺伝子変異したのなら、放射能汚染の中で生き残れるように進化した、より優れた人類の進化形なのかもしれない」
「じゃあ、あれはフーちゃんの被害妄想だっての?」
「いや、彼女たちにとってはそれが真実だったのだろう。我々の時代の隔離政策はあくまで保護という建前だった。だが、それを保護されていると感じるか、閉じ込められていると感じるか、それは隔離されている側が決める事だ。結局、原発事故と同じ構図だね」
「は?原発事故と同じ?」
「誰もが何かまずいんじゃないか、と感じながら行動に出るきっかけがなく、取り返しのつかない事件が起きて初めて間違っていた事をやっと認める。あのフーちゃんという少女の件は22世紀で世界中の政府に報告される。FD症候群の患者の扱いを改めるべきだという方向にきっと動くだろう。だがフーちゃんの命はもう戻らない。手遅れになってから初めて改善を考える。我々22世紀の人間も、君たちの時代の日本人を笑えない」
「ゲンノをあっさり行かせたのはなぜ?あいつはあの時代ではずっと未来人だから、歴史を変えちゃうとは思わないわけ?」