陽菜のあまりの剣幕に一瞬ポカンとしたアベは、すぐに気を取り直し陽菜に頭を下げた。
「いや、君の言う通りだね。悪かった。言い直そう」
 そしてフーちゃんの遺体を包んで燃え盛る炎に視線を向けたまま言葉を続けた。
「あのフーちゃんという少女の仲間……こっちは同じ年頃の少年たちだったが、1960年の日本の三大都市、つまり東京、名古屋、大阪で放射性物質を撒く事が本当の目的だったらしい。その少年二人はタイムマシン奪取の寸前で取り押さえられたので、それを知った22世紀の時間航行管理局が彼女を追っていた。こんな最後になってしまったのは、私としても残念だよ。君たちは責任持って21世紀へ送り届けよう」
「俺は21世紀には帰りません。このままこの時代に残ります」
 突然そう玄野が言ったので、陽菜も昭雄も驚いた。アベは一瞬目を丸くしたが、落ち着いた口調で問い返した。
「ふむ。なぜ、そうしたいのかね?」
 玄野は自分の両手をじっと見つめながら言う。
「俺は人を殺した。殺人犯だよ。このまま元の時代に帰って、何もなかったように元の暮らしに戻るなんて出来ない。いや、許されるべきじゃない」
 陽菜は地面を蹴って立ち上がり玄野に飛びつかんばかりにその肩をつかんで言った。
「いや、あれはあたしも言い過ぎた。そんなに自分を責めるなよ。それに、あの場合はああするしか……」
 陽菜はすがるような目つきで昭雄とアベを見た。アベが陽菜の意図を察して言った。
「あれは法律的には正当防衛ないし緊急避難という事に出来る。それにタイムマシンを強奪して違う時代から来た人間に対して、通常の殺人罪は適用除外になる」
 陽菜には何の事か正確には分からなかったが、それでも必死に玄野を説得しようとした。
「そうだよ、ゲンノ。そのセイトウなんたらとか言う権利がおまえにはあったんだ」
「権利ならフーちゃんにもあった……そう思わないか?」