「どうしたんです?」
 明雄がたまりかねてアベに声をかける。アベはこれまでの冷静な様子とは違って青い顔と震える声で答えた。
「近くに寄っただけで即死するレベルの放射線量だ。容器が完全に開いていないから、上向きにしか放射線が飛んでいないのが不幸中の幸いだが。これは大急ぎで22世紀の管理局本部に連絡して回収してもらわねば……」
 アベは自分とフーちゃんのタイムマシンをそれぞれ空中に上昇させ、空間ステルス機能でその姿を隠した。それから全員でさらに数百メートル離れた森が開けた空き地で、フーちゃんの遺体を火葬にする事になった。陽菜がどうしてもそう言い張ったからだった。フーちゃんは自分たちは22世紀では「人体実験」の道具にされていたと言っていた。
 遺体をアベの手に渡したらフーちゃんの遺体は22世紀に持ち帰られ、何かの実験に使われてしまうかもしれない。それは陽菜には耐えられなかった。陽菜がそう言うと、アベは一瞬何か言いかけたが、急に首を縦に振ってあっさり承知した。
 そこら中から薪になりそうな木を大量にかき集め、箱型に組み合わせてその上にフーちゃんの体を横たえる。陽菜は涙を必死にこらえながらフーちゃんの両手を胸の上で組ませてその上からさらに木の枝をかぶせた。
 アベが光線銃で下の方の木に火をつけると、炎は瞬く間にフーちゃんの全身を包み込み、その姿は赤い火の中に溶け込むように見えなくなった。時々追加の薪を投げ入れながら、陽菜たちは地面に座り込んで炎をぼんやりと眺めていた。不意にアベが口を開いた。
「あのFD3025号は……」
「やめろ!」
 陽菜の金切り声がそれを遮った。アベも玄野も明雄も飛び上がらんばかりに驚いて一斉に陽菜を見つめた。陽菜はアベをキッと睨みつけてさらに怒鳴った。
「あれはフーちゃんだ!あたしがつけてあげた、そういう、人間としての名前がちゃんとあるんだ!そんな番号なんかで呼ぶなああああああ!」