異本 殺生石

 通常空間へ出ると、そこは山の麓らしい田舎だった。フーちゃんのタイムマシンが森のはずれに横たわっている。近くに陽菜たちが降り立つと、フーちゃんらしき人影がタイムマシンの下から何か大きな物を引っ張り出しているのが見えた。
 そこはもうとっくに日が暮れていた。アベのタイムマシンが空中に浮き上がり、ライトで辺り一帯を広く照らし出した。タイムマシンの周りには、一本の太刀と弓矢が数組地面に転がっていた。地元の役人か何かと既に衝突したのだろうか?
「そこまでだ!やめなさい!」
 アベが大声で警告を発し、袖口から鈍い銀色に光る拳銃のような物を取り出し、フーちゃんに銃口を向ける。赤い光がほとばしったが、やはりフーちゃんに届く寸前で何か見えない壁に突き当たったかのように、光線は四方に散乱してしまう。
 フーちゃんは自分の背丈よりはるかに高い卵型の金属容器をなんとか動かそうとしているようだった。だが大き過ぎてタイムマシンの横まで運び出すのが精いっぱいだったようだ。
「無駄よ、バリア発生装置はこっちにあるんだから」
 陽菜たちに気づいたフーちゃんは、固い表情で誰にともなく言った。どこか投げやりでやけになっているような口調だ。
「フーちゃん!」
 陽菜は叫んだ。
「とにかく、あたしたちと行こう。こんな所で何をする気なのよ?」
 陽菜の横でアベが息を飲む音がはっきりと聞こえた。
「まさか、その容器は……」
 そのアベの言葉にフーちゃんが不気味に笑いを含んだ声で答える。
「そう、放射性セシウムとストロンチウムの結晶体よ。あたしはセッショウセキを探しに来たんじゃない!持ちこむために来たのよ。過去の日本に運び込むために、あの2011年の原発事故の現場から運んで来たのよ!」
「フーちゃん!何を言ってんの?」
 そう呼びかける陽菜に玄野が呼応する。
「そうだよ、フーちゃん。なんだってそんな馬鹿な真似を……もし間違いが起きたら、この国が滅ぶ」