陰陽師の後を追って庭園に駆け込んだ武者たちは、情けない悲鳴を上げてその場にへたりこんでしまった。部屋の端にはい出してきた上皇も真っ青な顔で口をぽかんと開けていた。
 フーちゃんは陰陽師が放つ赤い光をあの笏でブロックしながら、地面すれすれまで降りて来たタイムマシンのドアを開け乗り込んだ。タイムマシンはそのまま空中に垂直に上昇していく。
 それを見た陰陽師は胸元から扇子を取り出し一杯に開いた。すると扇子の上に光のパネルのような物が現れた。陰陽師はまるでパソコンのキーボードを叩くような手つきで光のパネルの上で指を素早く動かす。最後に「ピッ」という音がすると、フーちゃんのタイムマシンの動きが少しおかしくなった。それでも、何か見えない手を振り切るかのように、タイムマシンはその場の空間からかき消えるように姿を消した。どうやら、かろうじて時間航行に入ったらしい。
 陰陽師はしばらく扇子の上の光のスクリーンのような所を見つめていたが、やがて「よし」とつぶやいて道具を全て服の中に仕舞い、上皇の傍の廊下に戻りあらためて腰をつき頭を下げた。
「お上、ご無事でいらっしゃいますか?」
 上皇は腰が抜けた様子で、女官に左右から抱えられながら部屋の隅の脚を投げ出して座る。
「そ、そちは陰陽師であるか?」
「御意にござりまする。このお屋敷の方角からただならぬ怪しい気配を感じ、お上が急に病を得られたと聞きおよび、もしやと思ってはせ参じた次第。いや危ないところでござりました」
「で、では、朕の病は、あの妖怪の仕業であったと申すか?」
「さきほどお上の懐から取り出しましたあの玉、あれの呪いであったに相違ございません。あの娘の正体、方々もその目でご覧になったはず」
 ようやく立ち上がった武者たちが陰陽師の言葉にうなづきながら口ぐちに言った。
「わしも見た。あれは白い狐のように見えたが」
「いや、あんな巨大な狐は見た事がない」
「しかも、確かに九本の尾が延びていたぞ」
 彼らにはフーちゃんのタイムマシンが巨大な狐に見えたらしい。後方に伸びていたウィングを尻尾だと思っているようだ。