その日の昼ごろ、陽菜がまた屋敷の女官たちと一悶着引き起こした。もう昼食の時間のはずなので陽菜が催促すると、「こんな日の高いうちに食事ですか?」と言われて陽菜がキレてしまったのだ。
「こらあ、あたしたちは上皇様の客人だろ!昼飯も食わさないとはどういう扱いだ?」
 そうどなり散らす陽菜に、女官たちが困り果ててオロオロしている所へ昭雄が割って入り、女官たちに平謝りしながら陽菜を自分たちの部屋へ引きずるようにして連れ戻した。事情を察した玄野がリュックの中から非常食のクラッカーの箱を引っ張り出し陽菜に手渡す。陽菜は箱を開けてクラッカーを貪り食いながら、まだプンプンした口調で文句を言った。
「なによ!客人に昼飯も出さないって!」
「いや、そうじゃないよ」
 苦笑しながら昭雄が説明する。
「この時代ではちゃんとした食事は朝と夕方の二回だけ。つまり一日二食が常識だったんだ。だから昼間は食事をしない方が普通なんだよ」
「え?よくそれで体もったわね、この時代の人間って」
「まあ、農民や力仕事をする人たちはさすがにもたないから、八時という時間帯に間食をする習慣はあったんだけどな」
「ヤツドキ?」
「昔の時間の数え方で、まあ午後の二時ごろだな。その時間に食べる簡単な食事をオヤツと言うようになったんだ。僕たちの時代にもその名残りがあるだろ?」
「え?おやつって、元はそういう意味だったの?」
 玄野も感心して言った。
「へえ、俺もそれは初めて知りました」
 陽菜の豪快な食いっぷりを目を丸くして見つめていたフーちゃんも続いて言った。
「それは知らなかった。22世紀では女の子は太るのを気にしてオヤツは食べないのが普通だって聞いていたから」