さらに上皇が何か話しかけようとした時、部屋の外の廊下にあわてた足取りで一人の武者がひざまづき、上皇に声をかけた。
「お上、火急の事にて」
 上皇は舌打ちせんばかりに顔をしかめてその武者に答えた。
「これ、そちは気を使え。客人の相手をしておる最中ぞ」
「されど、関白様が帝のお女中の事にて、大変にお怒りのご様子にて、帝がお困りに、その……」
「藤原の忠道がまた騒いでおるか。娘が帝に入内したのじゃから無理はないが……いやはや、隠居も楽ではないのう」
 そう言って上皇は立ち上がり、陽菜たちにこう言って足早に部屋を出て行った。
「すまんが用が出来てしもうた。明日、ゆるりと話そう。今宵は旅の疲れを癒されるがよい」