どうやらさっきの牛車の中の人物が現れたらしい。明雄が胡坐のまま、上体だけを深々と下げて両手を床につけたので、陽菜、玄野そしてフーちゃんも見よう見まねで同じ姿勢を取った。
部屋に足を踏み入れた人物はさっきとはうって変わった飄々とした声と口調で陽菜たちに告げた。
「よいよい、堅苦しい事は無用じゃ。みな、顔を上げよ」
その人物の顔を見た陽菜たちは一瞬きょとんとした。そこにいたのは、まだ30代にしか見えない、思いのほか若い男性だったからだ。彼は早速フーちゃんの方へ視線を向け、気さくに話し始めた。
「いや、朕も帝として位にあった時は珍しい物や人を幾度も見たが、そなたのような黄金色の髪を持つ姫を見たのは生まれて初めてじゃ。その髪は生まれつきの物であるか?」
「はい」
フーちゃんは、おっかなびっくりという感じで頭を下げながら答えた。
「そうか、そうか。ああ、いちいち頭を下げんでもよい。朕はもう退位して、いわば隠居の身。宮中の堅苦しい作法だの礼儀だのはもうたくさんじゃ。そなたらも、そのように振る舞うがよい。それにこのような狭苦しい屋敷じゃで、気遣いは無用じゃ」
これが狭苦しかったら、あたしの家は何なんだ?さしずめ犬小屋並みか?と陽菜は思った。まだ呆気に取られている陽菜に比べ、フーちゃんは既に状況を呑みこんでいるようだった。今度は自分から上皇に話しかける。
「あの、上皇様」
「うむ、何かな?」
「帝をお勤めになった程の方であれば、もしやご存じかと思いまして。セッショウセキという物をご存じありませんか?」
「セッショウセキとな?いや、知らんな。それはどのような物であるか?漢籍ではどう書くのか?」
「それが、わたくしもどのような物かは存じません。漢字、あ、いえ、漢籍での記し方も。ただ、どこかにそういう名の不思議な力を秘めた物があり、それがわたくしの一族を救う事が出来るかもしれないと聞いて、行く土地の先々で尋ねております」
「ほう!不思議な力を持つ何かとな!それは面白そうな話じゃ。うむ、都に知る物がおらぬかどうか、調べさせてみよう」
「本当ですか、ありがとうございます」
「礼には及ばん。このところヒマを持て余しておったところじゃ」
部屋に足を踏み入れた人物はさっきとはうって変わった飄々とした声と口調で陽菜たちに告げた。
「よいよい、堅苦しい事は無用じゃ。みな、顔を上げよ」
その人物の顔を見た陽菜たちは一瞬きょとんとした。そこにいたのは、まだ30代にしか見えない、思いのほか若い男性だったからだ。彼は早速フーちゃんの方へ視線を向け、気さくに話し始めた。
「いや、朕も帝として位にあった時は珍しい物や人を幾度も見たが、そなたのような黄金色の髪を持つ姫を見たのは生まれて初めてじゃ。その髪は生まれつきの物であるか?」
「はい」
フーちゃんは、おっかなびっくりという感じで頭を下げながら答えた。
「そうか、そうか。ああ、いちいち頭を下げんでもよい。朕はもう退位して、いわば隠居の身。宮中の堅苦しい作法だの礼儀だのはもうたくさんじゃ。そなたらも、そのように振る舞うがよい。それにこのような狭苦しい屋敷じゃで、気遣いは無用じゃ」
これが狭苦しかったら、あたしの家は何なんだ?さしずめ犬小屋並みか?と陽菜は思った。まだ呆気に取られている陽菜に比べ、フーちゃんは既に状況を呑みこんでいるようだった。今度は自分から上皇に話しかける。
「あの、上皇様」
「うむ、何かな?」
「帝をお勤めになった程の方であれば、もしやご存じかと思いまして。セッショウセキという物をご存じありませんか?」
「セッショウセキとな?いや、知らんな。それはどのような物であるか?漢籍ではどう書くのか?」
「それが、わたくしもどのような物かは存じません。漢字、あ、いえ、漢籍での記し方も。ただ、どこかにそういう名の不思議な力を秘めた物があり、それがわたくしの一族を救う事が出来るかもしれないと聞いて、行く土地の先々で尋ねております」
「ほう!不思議な力を持つ何かとな!それは面白そうな話じゃ。うむ、都に知る物がおらぬかどうか、調べさせてみよう」
「本当ですか、ありがとうございます」
「礼には及ばん。このところヒマを持て余しておったところじゃ」



