多分玄野にとっては都合のいい事この上ないタイミングで、牛車が大きな門の前で停まった。それは21世紀の感覚では信じられない広大な屋敷だった。塀は高いが建物は全て平屋で、屋根は木の皮のような物で葺いてある。巨大な池の上に何本もの赤い小さな橋が渡してあり、その庭園をコの字型に囲むように三棟の家屋と長い廊下が立っていた。寝殿造り、という言葉を陽菜は日本史で習った知識からおぼろげに思い出した。
「その者たちは東対(ひがしのたい)へ、あないいたせ」
牛車の中の人物は武者たちにそう言い、車は屋敷の奥へ進んで行った。陽菜たち四人は庭園に面した建物の一つに案内された。高床式の床に靴を脱いで上がると、数人の女官らしい女たちがしずしずと近寄って来て、部屋の中へ通してくれた。そのうちの一人がフーちゃんに告げた。
「お上はすぐにおいでなさいます。しばし、この部屋にてお待ちを」
そして三人の女官がそのまま廊下に座り込んだ。陽菜は部屋を見渡して、開口一番言った。
「て、ここ板敷じゃん。畳が全然ないわけ?」
明雄が部屋の隅にあったイグサか何かを渦巻き状にしたような小さな敷物を取り上げながら陽菜に言う。
「この時代ではこの円座を一人ずつ使うんだ」
陽菜はその上に尻を乗せて座ってみようとするが、どうにも姿勢が落ち着かない。明雄は堂々と胡坐をかいていた。
「ああ、女の子でも胡坐で大丈夫だよ。この時代は十二単の女性でも座るときは胡坐が普通だ」
そう言われて円座と言う丸い敷物に尻を乗せて胡坐になってみると確かにしっくりする姿勢になれた。廊下に控えている女官がひそひそ話している声が聞こえて来た。
「なんと、畳を敷き詰めたお屋敷にお住まいであったのか、あの方たちは」
「東国には、贅を極めた暮らしをしておる元都人もあると聞いたが、やんごとなき御身分の姫様ではあるまいか?」
畳の事で変な誤解を与えたようだが、まあ、それはそれでいいだろう、と陽菜は思った。
ほどなく、廊下の奥から足音が近づいて来て女官たちが床に額をこすりつけんばかりの頭を下げた。
「その者たちは東対(ひがしのたい)へ、あないいたせ」
牛車の中の人物は武者たちにそう言い、車は屋敷の奥へ進んで行った。陽菜たち四人は庭園に面した建物の一つに案内された。高床式の床に靴を脱いで上がると、数人の女官らしい女たちがしずしずと近寄って来て、部屋の中へ通してくれた。そのうちの一人がフーちゃんに告げた。
「お上はすぐにおいでなさいます。しばし、この部屋にてお待ちを」
そして三人の女官がそのまま廊下に座り込んだ。陽菜は部屋を見渡して、開口一番言った。
「て、ここ板敷じゃん。畳が全然ないわけ?」
明雄が部屋の隅にあったイグサか何かを渦巻き状にしたような小さな敷物を取り上げながら陽菜に言う。
「この時代ではこの円座を一人ずつ使うんだ」
陽菜はその上に尻を乗せて座ってみようとするが、どうにも姿勢が落ち着かない。明雄は堂々と胡坐をかいていた。
「ああ、女の子でも胡坐で大丈夫だよ。この時代は十二単の女性でも座るときは胡坐が普通だ」
そう言われて円座と言う丸い敷物に尻を乗せて胡坐になってみると確かにしっくりする姿勢になれた。廊下に控えている女官がひそひそ話している声が聞こえて来た。
「なんと、畳を敷き詰めたお屋敷にお住まいであったのか、あの方たちは」
「東国には、贅を極めた暮らしをしておる元都人もあると聞いたが、やんごとなき御身分の姫様ではあるまいか?」
畳の事で変な誤解を与えたようだが、まあ、それはそれでいいだろう、と陽菜は思った。
ほどなく、廊下の奥から足音が近づいて来て女官たちが床に額をこすりつけんばかりの頭を下げた。



