異本 殺生石

 とは言え、陽菜たちの服装は相当奇異に映るらしく、通り過ぎるこの時代の人たちは目を丸くしてじろじろ見つめていた。陽菜はTシャツ、ジーンズ、ジージャンにスニーカー。玄野と明雄はジーンズにジャージ、同じくスニーカー。特にフーちゃんの未来の銀色の服はひときわ人目を引いていた。
「とりあえず、この時代の着物を手に入れよう。上から一枚羽織っているだけでもマシだろう」
 そう言った明雄は、例の金の小さな延べ板を手にして通りに並ぶ一軒の店に入り、四枚の薄い着物と何か妙な形の帽子のような物を買って来た。四人はガウンのように着物をそれぞれ上から羽織る。明雄はフーちゃんにその妙な帽子を渡した。
「君はこれを被ってなさい。この時代では君の髪の色は目立ち過ぎる」
 それは麦わらで編んだ幅の広い円形の帽子で、真ん中の部分が上に向けて少しとがって盛り上がっている。つばに沿うように薄いレース状の布が垂れ下がっていて、フーちゃんが被ると彼女の顔がすっぽり周りを布で覆われて外から見えにくくなった。
 さすが東大出だ、と陽菜は思った。確かにこれならすれ違ったぐらいではフーちゃんの珍しいルックスに気づく者はいないだろう。この時代の貴族などの身分の高い女性が外出の時に頭に被る物だと明雄は説明した。
 それから四人は都の大通りをぶらぶらと歩いてみたが、江戸時代の街並みと違って飲食店や宿屋が全く見つからない。そもそも何かの商店らしい建物にも看板が全くない。明雄が言うには、平安時代の街並みは最大の都市、京の都においてもこんな物だったらしい。
 数日間はここに滞在する羽目になるのだから、食事や寝泊りをどうしたらいいのか、これは明雄にも見当がつかなかった。道端で途方に暮れていると、交差している道の角から牛に引かせた豪華な飾りのついた車がこちらに向かって来た。いわゆる牛車という物らしい。