異本 殺生石

「1130年ならまだ平安時代だ。まだ都の朝廷が日本を支配していた頃だな」
「あ!なんてこと!」
 計器を見回していたフーちゃんが叫んだ。
「エンジンがオーバーヒートしちゃってる。また動かせるようになるまで、何日かかかるわ、これじゃ。ううん、逃げる時に無茶な時間航行のやり方だったから」
 平安時代の京都に着いてしまったのは想定外だったが、タイムマシンがしばらく動かせないのなら、いつまでも狭い操縦席に閉じこもっているわけにもいかない。とりあえずマシンを降りて都へ行ってみようという事になった。それにこの時代に「セッショウセキ」という物質の手掛かりがあるかもしれない。
 幸いタイムマシンの空中静止と空間ステルス機能は無事だった。全員外に出て玄野と明雄がリュックをひとつずつ背負い、タイムマシンを十メートル上空で静止させ姿を消させる。
 それから四人は山道を、今日の都らしき場所目指して歩いた。一時間ほど歩くと徐々に人の姿を見かける事が多くなり、二時間後四人は崩れかけた城壁のような場所にたどり着いた。多分元は城壁だったのだろうが、今はあちこちで土台まで崩れていて壁の体を成してはいない。
 そこを抜けると、真っすぐに伸びた広い道があり、大勢の着物姿の人たちが行き交っていた。道端でむしろを広げて、いろんな物を売っている商人らしき男もたくさんいた。彼らの服装は、テレビの時代劇で見る着物とはかなり違っていた。作りが雑で、帯ではなく太い縄で腰を結んでいる男女が多い。髪も紙で出来た紐みたいな物でざっくり後ろで結んでいるだけ。大人の女性もそんな感じだった。ちょん髷や日本髪に結いあげた人は見かけない。