翌朝陽菜が目を覚ますと、フーちゃんはもう起きていて、窓の傍に両膝を抱え込んだ格好で座り込み、何が面白いのか、窓ガラス越しにじっと空を見つめていた。陽菜はベッドから起き上がり寝ぼけまなこで声をかける。
「ふにゃあ、フーちゃん、早いね」
「おはよ!陽菜ちゃん」
「あ、おはよ。何をそんなに見てんの?何か珍しい物でもある?」
「ううん。空を見てただけ。こんなに広い空を見たのは生まれて初めてだから」
「は?空の広さなんて時代で変わんないと思うけど?」
「あたしはFDの収容所から外へ出た事がなかったから。高い塀に囲まれた、切り取られた様な空しか見た事がなかった」
 空がそんなに珍しい……大変な人生を送って来たんだな、と陽菜は改めて思った。それから二人がリビングへ降りて行くと明雄が既にコーヒーを沸かしていた。三人でトーストとコーヒーで朝食を済ます。
 その間三人は何か話そうとしながらも、言葉に詰まって終始無言のままだった。昨夜から信じられない事の連続で陽菜も明雄もまだ頭が混乱していた。食事が終わったタイミングを見計らったかのように玄関のチャイムが鳴った。玄野である事をレンズ越しに確認した陽菜はドアを開け、そして呆れて言った。
「ゲンノ、何だよ、その馬鹿でかいリュックは?富士山にでも登る気か?」
 玄野は心外そうに反論した。
「富士登山よりよっぽど大変かもしれないじゃないか。時間旅行なんだぞ。それに明雄さんに言われて持ってきた物だって入ってるんだからな」
 リビングに入ると玄野はフーちゃんに「あ、あの、おはよう」と声をかけ、妙に落ち着きのないソワソワした感じになった。その玄野の様子を見た陽菜はそっと顔をそむけて、にやりと笑った。明雄が玄野に尋ねる。
「玄野君。頼んでいた物は用意できたかい?」
「あ、はい」