「…バカなのはあたしの方なのにね
  。」

 「え?」

何言ってるんだろ、あたし。

 「なんでもない。
  発声はもう終わってるよ。」

無理やり作った笑顔のあたし。

それを見た真瞬君は、ひどく傷ついたような顔をしていた。

 「…そっか。
  じゃあ、はじめるか。」

今日は練習でソロパートの録音をするらしい。

ソラ君がレコーディング室のガラスから見える。

 「亜緒?」

 「…なんでもないのに…。
  キスくらい。」

こーゆー時…真瞬君の体温がやけにあったかく感じる。

 「あたし…ダメだね。
  こんなんじゃダメだ。」

ソラ君を責めるよりも、あたし自身を否定するのが一番手っ取り早かった。

 「…ソラ君は悪くない。」

…聞こえたかな…。