前までの森下海恋は明るく振る舞い誰にでも優しく、男子とも話していたりすることがあったのだが、今ではその面影がなくなっていた。
 彼女の陶器のように白く滑らかな肌なのだが、表情は影を落としていた。目元にはくっきりと隈ができ、眠れていないことが誰の目にも容易にわかる。
 そんな彼女の姿を見て心配した友達が休憩時間に声を掛けたが、彼女は力なく笑顔で頷くだけで喋ろうとしなかった。
 彼女は朝から今の今までその状態で、土曜日の午前中授業を受けていた。
 チャイムが鳴り、授業が終わったのにもかかわらず微動堕にしない彼女に親しい友達が声を掛けれる雰囲気ではなかった。
 担任の先生が教室に入ってきて、短い他愛もない話を混ぜたホームルームを終え、教室から出ていった。先生が何故亡くなった生徒について触れなかったのかは、恋人関係にあった彼女に遠慮したためか、理事長または校長にその話をするなと釘をさされたかは分からない。
 どちらにしても、その話をしないことが彼女にとって一番いいことなのかもしれなかった。
 沈痛な面持ちで帰り自宅をした彼女が教室を出ていこうとすると、一人の優等生そうな男子が声を掛けた。今日学校で最初に声を掛けた男子がその人である。その男子は比較的彼女とは仲の良い間柄な関係だった。
「大丈夫……?」
 気遣わしげにその男子は森下を見た。顔や髪型が爽やかなその男子は彼女の肩に心配そうにそっと手を置いた。
 ビクッと彼女の肩が震えた。それは何かに怯えたような震えだった。彼女の体が萎縮する。
 その反応を見た爽やかな男子は静かに彼女の肩から手を離した。「あ、ごめんね」とすまなそうに彼女に謝る。
「………」彼女は黙ったままだ。「その……森下が晴司のことで苦しんで悩んでいるなら僕に相談してくれないか。いや、その無理にとは言わないけど」
 決まり悪そうに爽やかな男子は手を後頭部に当てた。
 ずっと顔を俯かせていた彼女はその男子を見ることもなく、急に走り出して去っていった。
 そのことを見ていた彼女の友達が爽やかな男子に近づく。
「海恋、どうだった? 笹原くん」
 爽やかな男子――笹原は少し間を置いて答えた。
「なんとも言えないね」
「やっぱりまだ気持ちの整理が着いてないんだよ」
「そうだね」と、森下の去っていった方を見て口端を歪めた。