乾いた声で笑うと、あの人がため息をつく。
『ダメだよ、大人になったら』
「あなたこそもう立派な大人じゃない」
『…それは言っちゃダメ』
「ほんとのこと」
そういうのじゃなくて、とごちる声を聞きながら、私はゆっくりと腰を上げた。
肩に降り積もった雪を手で軽く払う。
「ねぇ、」
まぁどうせ、家に帰る間にまた積もるんだろうけど。
「もう帰るよ」
返事も聞かぬうちにシャクシャクと雪の上を歩く。
ブーツが濡れて、足先が凍るように冷たい。
革靴なんて履いてくるんじゃなかった。
内心でそうつぶやき、黙々と歩を進めた。
「―――…もしも、」
突然聞こえてきた声に、ピタリと足を止める。
私が振り返るよりも早く、体が大きな温かいものに包まれた。

