【短編】だから傍にいて、





刻一刻と過ぎていく時間。

人の姿もまばらになっていく。

太陽なんてものはもうとっくにお眠りの時間で、代わりに青白い月がぽっかりとビロードの空の闇に浮かんでいた。


本当に来るのだろうか、


向かい側のベンチに座っていたカップルが重たい腰を上げ、手を繋ぎながら去っていく様子を見ながらふと頭をもたげた疑問。

ごくごく自然な疑問。

何故かって?

そんなの決まってる、三時間も冷たいベンチの上で待っているのだから。



『待ってて。必ず行くから』



その言葉を信じ、待っているのだから。


耳あてこそすれど、もうその役割は半分も果たせてはいない。

今日は今年一番の冷え込みだと、朝のニュースでやっていた。

いつもは暖かくふんわりと私の耳を守る耳あてでも、冷たすぎる寒気と、長時間の外出には対応できないらしい。