「ん………っ」




薄暗い資料室。




口付けを交わす二人の息づかいだけが響く。




誰が来ても可笑しくないこの状況。




こんなスリル嫌いじゃない。




「お取り込み中失礼、レイヤくんっ!」




…………やっぱり嫌い。




いつの間にか資料室に入っていた結城さん。




扉にもたれ掛かり、ニヤリとしながらこちらを見る。




「……邪魔すんなや。」




「いやー、あまりにも遅いもんだから、まさか資料室で一発かましてんじゃないかと思ってねー。」




「かましてへんわ!」




ギュッと私を抱き締めるレイヤ。




レイヤの香水が強く香る。




あー、この匂い好き。




「どーだか……。俺が来てなかったら、ヤってたね。」




「…………。」




否定しないのかよ。




生憎、私は資料室でヤるほど盛ってない。




元気な33歳だね。




「はせちゃん、こんなオッサンやめて俺にしない? あと半年は33歳だよ、俺。」




33の部分だけ強調して言った結城さん。




素直なレイヤはそれに食ってかかるのは目に見えてて、




「な、なんや! お前、早生まれやからってそれは汚いで! どっちにしろ同い年や!」




そう、レイヤと結城さんは同い年。




7月生まれのレイヤと2月生まれの結城さん。




あと1ヶ月でレイヤの誕生日。




「レイヤ、あと1ヶ月でまた1歳オジサンになるね。」




ほんの出来心。




冗談のつもりで言ったのに……。




「オ、オジサン……?!」




「へ……?」




「オオ、オジサン?!」




私を抱き締めていた腕が、だらんとぶら下がる。




そして、これでもかと開かれた大きな瞳。




余程、“オジサン”フレーズが硝子のハートに打撃を加えたらしい。