汐音が目覚めたのは昼前であった。
目覚めてしばらくは、自分の置かれた状況を理解できずにいた。
布団も何も被らずに畳の上に横になっており、服もここに来た時の格好のまま寝ていたようだ。
(どうりで寒いと思った・・・)
長い移動で疲れていたせいか、ここに着くなりイキナリ寝てしまった自分に対して、あまりの警戒心のなさに、これも慣れてきたからかなと思った。
(でも、お腹がすいているにも関わらず、昨日の食卓のご飯には手をつけなかったんだから、慎重に行動しているわ、私。)
汐音は起き上がると、周囲を見渡した。
着いた時は暗さのせいか不気味に感じた部屋も、今は窓のカーテン越しに部屋に日が差しており、古い感じの和室とはいえ綺麗に整理整頓されているため、落ち着いた雰囲気であった。
窓に向かって左側の壁には大きなタンスと、年期の入った化粧台、反対側には押入れがあり、中くらいの大きさのテレビ、部屋の真ん中には木製の机、テレビの上の壁には時計がかかっており、11時を指していた。
汐音は窓に近づいて開けようとしたがビクともせず、錠がかかっていると思って窓の回りをあちこち探してみたが、それらしい物は見つからなかった。
ガラスは曇りガラスのせいか、外の景色を見ることはできなかった。
ふうっとため息をついてしばらくボーっとしていたが、昨日の夕飯を思い出したので、奥の襖を開けて台所に移動した。

台所は洋室であり、真ん中にテーブルと椅子がいくつか並んでいた。
テーブルの上には、ご飯と味噌汁、焼き魚とほうれん草のおひたし、冷奴とお茶が置いてあった。
(昨日は焼肉じゃなかったっけ?片付けられたのかな。)
不審に思いながらも椅子に座り、用意された朝食に手をつけた。
(警戒したってしょうがないわ。食べれる時に食べておかないと。全然食べてなくてお腹すいてるんだし、そもそも食べないともったいないし・・・)
作られてから数時間が経っているせいなのか、どれもこれも冷めてはいたが空腹と相まって美味しかった。
(水もお湯も出るのね。とりあえずご飯も飲み物もあって安心した・・・これからどうしようかな。お湯が出るって事はお風呂もあるよね。お風呂に入りたいなぁ。着替えたいなぁ。)
食器をガチャガチャと洗いながら、そんな事を考えていた。