スピカ

 スパイスの効いた、如何にも辛そうな香りが、廊下に充満している。お陰で、ここだけ、外よりも湿度が高くなっているような気がする。
幸い、行列は控え室であるあたし達の教室までは至っていなかった。

「すっげぇ人……」

楸さんは興味津々で、首を捻ってまで行列を凝視している。
注意力散漫で、目を離すとすぐにどこかへ行ってしまいそう。子供よりも厄介だ。

「俺も売上に貢献したげようか?」

「うわ、俺、気が利くじゃん。やっべー」と言うような顔だ。満足そうにニコニコして、「ねえ」とあたしを促した。

「結構です」

楸さんなんかと一緒に回って堪るもんか。
こんなチャラ男を、彼氏だと、勘違いでも思われたくないし、運悪く、洋君とばったり会ったりでもしたら、……最悪だ。
出来る限り、そんな事は避けたい。

「てか、蛍姉達と一緒に来たんでしょ?  あの2人はどうしたの?」

1段1段、階段を上る毎にスリッパがパスンパスンと気の抜けた音を立てる。
もっと普通に歩けないのか、この男は。

「そうなんだけどさー、逸れちゃったんだよ。芸能人がいるとか何とか言って、どっか行っちゃって」

「あ、ああ……そうなんだ」

「文化祭なんだから、芸能人がいても別に不思議じゃないのにねー」

いや、不思議だろ。
一体どんな高校に通ってたんだよ。

「それで、サナエちゃんに雅ちゃんの所まで連れて来てもらったという訳」

サナエちゃんって……。
たかが道案内をしてもらっただけの仲なのに、ちゃんと名前まで聞いたのか。
……侮れん。

「あんた、やっぱすげぇわ」

「は? 何が?」

「いや、別に」

「何で何で?」と、しつこく服を掴んでくる。
どうして、こんなガキみたいな欝陶しい奴がモテるのだろうか。皆、外見に騙されているんだ。きっと。