薄い雲と、青い空。
澄んだ空気が雲まで溶かしてしまいそう。雨続きだった空も今日はご機嫌みたいで。天気は、典型的な秋晴れ。

いつもはくすんだクリーム色と灰色の混ざったようなボロボロの校舎も、今日はカラフルな風船や飾りで彩られ、どこか嬉しそう。築100年も越えると、建物にも魂は宿るのだろうか。だとしたら、間違いなくこの校舎は女だ。

「ふぇ……っくしょんっ」

カレーのツンとした匂いが鼻の奥を刺激する。喉まで届きそうな、スパイスの香り。甘口しか食べられないあたしは、どちらかと言うと、この匂いが嫌いだ。

「雅ー、もっと上品にくしゃみしてよね。仮にも飲食店なんだからさ」

「ごめん、ちーちゃん」

ちーちゃんこと、ホールを仕切る智恵ちゃんが呆れた顔をしている。まだ化粧途中なのか、眉毛がなくて少し怖い。
「まぁ、まだ開店時間じゃないからいいけど」と呟くと、手元の鏡を正面に立てた。


「それにしても良い匂いだよねぇ。2日目になって、調理班の子達、更に腕を上げたな? 美味しそう」

幸せそうに頬を緩ませながら、用意を終えた亞未が近寄って来る。
黒過ぎる髪が、派手な黄色の衣装とマッチして、どこかの占い師みたい。かなり胡散臭いけど。

「あたし、カレー嫌いだから食べれない」

「そんなの、あたしだって野菜嫌いだから米と肉しか食べれないって」

今さっき、美味しそうだって言ったの誰だよ。野菜が入っていなかったら、ただの辛いご飯じゃないか。コイツの感覚はめちゃくちゃだ。

「もはやカレーじゃねぇよ、ソレ」

やっと眉が浮かび上がったちーちゃんは、話を聞いていたのか、呆れ笑いを零した。

「ちょっと。そんな事言わないでくれる? やる気なくなるでしょうが」

はーい、と言っておいたものの、やる気なんてものは元々ない。だって、文化祭とかそういう行事、どうだっていいんだもん。