「いいなぁ、見たい」

摘んだ肉が箸から滑り落ちそうになった。慌てて持ちこたえたから良かったのだけれど、ひやっとした発言はどうやら聞き間違いじゃなかったらしくて。
楸さんは、目を輝かせて繰り返した。

「見たいなー、衣装」

「冗談じゃない! 絶対やだ!」

「何で?」

「嫌だよ、あんな衣装。似合わないから、やだ」

そう吐き捨て、言葉と入れ違いに肉を口に運ぶ。やっぱり脂分は少ない方が良い。胃にも優しそうだし。

「蛍ちゃん、見に行こうよ」

……って、おい!
あたしには焼肉を味わう暇もないのか。十分噛んでいないまま、慌ててごくりと飲み込んだ。

「っはぁ? あたしの話、聞いてた?」

楸さんはあたしには目もくれず、蛍姉からてっちゃんに視線を移した。

「てっちゃんも一緒に」

「あ、いいね。高校とか久しぶりだな」

意気投合するポイントが分からない。唯一の味方だと思っていた蛍姉まで、なぜか乗り気で。

「来週だよね。じゃあ皆で行こっか」

なんて、言ってやがる。
ふざけんなよ。

「ちょっと、本気で止めてよ。迷惑だってば!」

一喝すると、口々に喋っていたのが急に静まり返った。ジュー、と焼ける音だけが耳を伝う。鉄板の熱か、またはそれ以外の何かのせいなのか、顔が熱い。
静かになった中、さっきまで黙っていたお父さんがぼそりと呟いた。

「来週かぁ……。いいなぁ、お父さん仕事だから行けないや」

「いや、来てだなんて一言も言ってないから!」

むしろ有り難いくらいなのに。何をショックそうにしてるんだ、このオヤジは。小学生じゃないんだから。

「見たかったなぁ、雅の晴れ姿」

「別に晴れ姿じゃないから安心して」

大袈裟だよ、と言おうとすると、楸さんの声に邪魔されてしまった。

「おじさん、大丈夫! 俺がばっちり写真撮ってくるからね!」

「黙れ、てめぇー! あんたが1番来て欲しくないわ!」

「ななな何て事をっ! 俺は行くぞー!
何があっても行くからなぁっ!」

何だよ、その決心は!
お父さんはやったぁ、と満足気な顔をしたけれど、楸さんに完璧に騙されている。どうせ、女子高生と戯れたいだけだろうが。


「来んじゃねぇーーっ!」