「もう文化祭かぁ」

楸さんは懐かしむように頷きながらどこかを見ている。自分だって大学の学祭があるのに、何が懐かしいんだか。
蛍姉が乗せてくれた肉を裏返すと、まだ少し赤味が残っていた。

「雅ちゃん、何すんの?」

「インド料理」

「あ、いいじゃん。楽しそう」

蛍姉は他人事だからそう言えるのだろうけど、実際は楽しくない。飲食なんて忙しいし、まず、あたしはカレーとかそういうのは嫌いだ。

「でもさ、飲食ってそんなに準備する事あるっけ?」

ぴたりと箸が止まってしまった。かなり目敏い所を突かれたからだ。
楸さんと言えど、そういう所は侮れない。

「い、衣装作ってんの」

「どんな?」

どんな?だなんて。どこまでも嫌な人だ。何もそこまで聞く必要はないだろう。
無視しようとしたのだけれども、視線は尚もこっちに向けられたままで。

「……インドっぽいやつ」

ぼそぼそとした声で呟いたつもりだったけれど、やっぱりそこは聞き逃してくれなかったらしい。皆が急に興味を持ったのが分かった。

「うわ、いいなぁ」

「可愛いじゃん」

確かにあたしのクラスの衣装は可愛い。だけど、あたしも着るんだぞ? ちゃんと分かっているのだろうか。

「良くないよ。最初はヘソ出しとかいう案も出てたんだから。迷惑だっつーの」

「何で? よく出してるじゃん、雅は」

「うるさいなぁ」

露出狂って言いたいのか。相変わらず、失礼な家族だ。
うんざりしながら、さっきの肉をひっくり返した。

「あ、焦げた」