タオルから顔を離すと、亞未は真ん丸の目を更に丸くした。

「あれ? 髪の色、戻したの?」

「あ、ああ……まぁね。前の色も飽きたからさ」

神々しかった髪は、光に当てても栗色にしか見えなくなった。“学校が始まるから”なんて、馬鹿馬鹿しい理由で髪色を暗くした訳じゃないけれども、周りにはそう見えるらしい。それならそうで、別に構わないのだけど。

でも、戻した、だなんて失礼な。
あたしの地毛はもっと綺麗な黒なのに。戻したのじゃなくて、茶色に染め直しただけだ。

「亞未こそ、遅刻なんて珍しい。どうしたの?」

欠伸混じりに口を動かす。そのせいで声が波打ってしまったけど、聞き直すまでもない。亞未がすぐに声を顰めたからだ。

「ああ、アイツが帰って来てたから、喋ってたら遅くなっちゃって」

アイツというのは、亞未の幼馴染みの事だろう。亞未の幼馴染みは少し……いや、かなり訳有りで。
ここで色々聞くのはきっと迷惑になるだろうから、軽く受け流しておいた。

「暑ぅ……。早く終わればいいのに」

溜め息ばかりが、湿気の充満した夏の体育館に溶けていく。

始業式とは呼べないくらい出席人数が少ない。いつもより人口密度が小さいはずなのに、こんなにもむさ苦しいなんて。
やっぱり式なんか出なければ良かった。
慣れない事はするべきじゃない。

式の終わりまでまだ10分以上ある。改めて溜め息を吐くと、本日数回目の欠伸が口から漏れていった。