部屋にパタンと固い音が寂しく響く。
ようやく独りになった空間は、どこか不自然で。軋んだベッドが、必要以上にうるさく感じた。

まさかすんなり出て行くとは思っていなくて、正直悪い気はした。
だけど、遠ざけたかったんだ。嫌いなものも、辛いものも、苦手なものも全部。
あたしの眼に、映らなければいい。
楸さんも、良平も、その前の男も、その前の前だって。

あたしの過去には不必要だ、そんなもの。要らない。


あたしは変わらないものが、欲しい。

いつまで経っても変わらない
不変のもの。


優しさも
笑顔も
視線も
愛情も
温もりも。

飽きた、だなんて言わないから。
変わらない何かが、欲しいんだ。

そんなものはない、って分かってる。

それなのに、あたしは僅かでも期待してしまうんだ。

洋君なら、もしかすると変わらないでいてくれるんじゃないかって。ずっと、あたしを好きでいてくれるんじゃないかって。


馬鹿で、臆病な女。

分かっているはずなのに、同じ事を繰り返して。
ここから踏み出せずにいる。
ずっと、長い間。

誰かが助け出してくれるのを待って。


「……もう、嫌なのに」


“優しい眼だったから”

そんな言い訳を付けて、流れに身を任せようとするんだ。

あたしという人間は。