スピカ

 カンカンカン、と硬い音を立てて階段を下りてくる。

「相変わらずつれないなぁ、雅ちゃんは」

「すみませんね、相変わらずで」

暗い視界に楸さんを捉える。砂を擦りながらこっちに向かって来ているではないか。
心底、うんざりしてしまう。わざと怪訝そうな顔をしてやった。

「何ですか? ストーカー?」

「違うわっ!」

門を閉めようとすると、それを左手でがっちり掴まれてしまった。まるで新聞の勧誘を断る若奥様の気分。
痩身のくせに力だけは1人前で、閉めようとした門戸がびくともしない。ふんっ、と力を入れて引っ張ってみるも、楸さんは余裕たっぷりに煙草を口から離した。濁った空気が手元を霞める。

「ちょっと。閉まんないんだけど」

「俺も出るんですけど」

1枚の板を挟んで睨み合う。
楸さんとこんなに目を合わせたのなんて初めてかもしれない。この余裕ぶった顔に腹が立つ。

「閉じ込める気?」

楸さんがふと力を抜いた。
勢いよく閉まった門が、ガシャアンッと大きな音を立てる。住宅街にまで響いて、かなりの近所迷惑だ。
その反動に、思わずぐらつくあたし。尖ったヒールが、小刻みにアスファルトを突いた。

こんな失態、楸さん相手に以っての外だ。
苛立ちを込めて思いきり睨み付けると、

「やーい。俺の勝ち」

と、楸さんは子供みたいな笑顔浮かべた。

ムッカーーー!


かなりどころか、至極腹が立つのだけれども、ここで怒鳴っては、近所迷惑も甚だしい。ふん、と鼻を鳴らして大袈裟に向きを変えてやった。