ガサガサと靴箱の中から、金と黒のサンダルを引っ張り出す。この前履いたばかりなのに、どうしてこんなにも奥に直されているのだろう。女3人分の靴がごちゃごちゃになっていて、どう見ても綺麗とは言えない。
梢姉の靴もまだ何足か残っていて、何気なく手に取ってみた。

「梢姉、このヒール、持って行かないのかな?」

大切に使われていたのか、まだツヤがあって綺麗。梢姉の性格が一目で分かる代物じゃないだろうか。

「……さぁ。忘れてるんじゃないの?
雅、貰っちゃえば?」

え、と一瞬躊躇う。
だって、どう見てもこんなシンプルなヒール、あたしには似合わないでしょ。あたしは、履き潰したスニーカーか、目がギラギラするようなヒールしか持ってないんだもの。

「そんなの、怒られるよ」

ぼそりとそう呟くと、蛍姉は小馬鹿にしたように口だけで笑った。

「大丈夫でしょ。雅も1足くらいはそんな靴、持ってた方がいいよ。……ていうか、雅にも怖いもんなんてあったのね」

なんて失礼な。ムッと口を結んでみせる。背後の蛍姉にはどうせ見えないのだけど。
黙ったまま、梢姉のヒールを元あった所と違う場所に直してやった。

金のエナメルが電気に反射して威厳を放っている。

なのに、あたしにはこんなゴージャスな見掛けだけのサンダルよりも、あの白い清楚なヒールの方が、何倍も高価なものに見えてしまう。

安っぽい女。

目を塞ぐかのように靴箱を閉め、腰を上げた。少し高くなった視界でも、蛍姉は上にいる。段差があるのだから、当たり前だけど。

「行ってきます」

「気をつけてね」

梢姉に少しだけ似た笑顔を横目に、あたしは玄関の戸をカタカタと閉めた。