楸さんが馴れ馴れしいのは、初めて会った時から、ずっとだ。だから第1印象も最悪で、あたしにはどうしてもいけ好かない奴にしか見えなかった。


「もしかして、梢姉がいなくなって皆が寂しがるから……だったりして」

ふと、蛍姉は猫のような目を浮かせて、ニヤリと笑った。悪戯っぽいその表情に、僅かにあどけなさが浮かび上がる。
馬鹿馬鹿しくて、溜め息が零れていった。

楸さんがうちに来る理由なんて、簡単だ。
食費も浮くし、単に、女に囲まれていたいだけだろう。


「……阿保らし」

「は? 何が?」

「楸さんが、他人を気遣えるほど思慮深い性格だと思う?」

自分で言っておきながら、全くもって馬鹿らしい。内なるあたしが、呆れた顔で首を振っているのが想像出来る。
ふ、と小さく零し、すぐに蛍姉は口元を歪ませた。

「ないない。有り得ないわね」

ほら、言うまでもない。
楸さんの信用なんて、こんなもの。

蛍姉は何かを探しているらしく、広告に隈なく目を通している。気にはなったけど、特に聞く必要もない。

つけっ放しのテレビから、聞き覚えのある前奏が流れてくる。
音楽番組の取りは、やっぱり大物バンド。意識しなくとも、目が吸い寄せられてしまう訳で。少し痺れかけの手に、もう1度顎を乗せた。