「てか、あの2人は?」

「え?」と目を浮かせる。向かいにいる蛍姉は、新聞の広告にパラパラと目を通していた。

「望君と楸君。帰ったの?」

“望君”でピンと来なかったけど、何となく森崎さんの事だな、と瞬時に察した。人の良さそうな森崎さんの顔が思い浮かぶ。

「あ、ああ。夕方、帰っていったよ」

「ふーん」

もっとゆっくりしていけばいいのに、と蛍姉が言い足した。分からなくもないけど、同意もしない。何だか複雑な気分。


「そういえばさ」

蛍姉の声に、テレビに戻そうとしていた視線を再び正面へ向ける。いちいち反応するのが面倒臭くなり、やむを得ず、頬杖を止めた。

「梢姉が家を出てってから、よくうちに来るようになったよね、楸君」

「……そうだっけ?」

思わず眉が顰まった。だって、楸さんがうちに上がり込んでいるのなんて、ずっと前からだと思っていたから。

「そうだと思うよ。前まではこんなに仲良くなかったし」


……そういえば、そうかもしれない。
今日だって、楸さんと会ったからと言って一緒に家に帰ってくるなんて、蛍姉には有り得ない。気難しい蛍姉が、てっちゃん以外の男の人に懐くなんて聞いた事がないのだ。