行きには線香やら墓花やらを持たされ、いっぱいだった手が、すっかり暇を持て余してぶらぶらと宙を彷徨っている。
何だか、あたしの人生みたい。

はは、笑えねー……


「あ、こんちはー」

ふと視線を浮かせると、向かい側から遠慮気味に頭を下げている人が見える。あの荷物の量と痩せ細った体型からして、うちのアパートの住人だと分かる。
出歩く時はやっぱりコンタクトをしてないとダメだな、なんてぼんやり思いながら軽く会釈しておいた。

「森崎さん、こんにちは。実家からのお帰りですか?」

あたしの無愛想さとは対照的に、梢姉が優しく笑いかける。
そこで初めて、あたしはそれが森崎さんだったという事に気づいた。

「はい、もうクタクタっす。盆くらい帰って来い、って親がうるさくて」

人懐こい笑顔が次第にはっきりしてくる。

森崎さんは、好きだ。
1つしかあたしと違わないのに、低姿勢でおおらかで、凄く良い人。

「どこの家も同じですね」

梢姉が先回りして門戸を開けてやる。
我が姉ながら、気が利く。

森崎さんは小さくお礼言いながら、門を通った。