「お母さん、お昼作ってくれてるかな?」

「さぁ? 作ってないんじゃないの。まだお昼前だし」

太陽はもうこんなに高い。色で表すなら、銀色。突き刺すように、あたしをギラギラと睨んでいる。

あたしの事がそんなに嫌いか。

「雅はお昼、何がいい?」

梢姉の蜂蜜色の髪は好きなのに。あたしの金に近い色は、気に食わないらしい。

「じゃあ、冷し中華」

狭い視界の中に、馴染み深いボロアパートが見えた。下を向いて歩くと、遠い距離も案外短く感じる。
こんなクソ暑い中、年頃の娘が墓参りだなんて気が狂いそうだ。

んー、と唸り声が小さく聞こえてきてようやく、さっきまであたしと梢姉が話していた内容に意識が戻る。

「お素麺でいい?」

「え、冷し中華は?」

髪を揺らしながら、困ったような笑顔が返ってくる。

「そんなの出来ないわよ。買い物に行かないと」

……なら、聞くなよ。

最初から素麺にする気だったくせに、あたしに意見を求めてくるとは。全く。無駄な期待をさせてくれる。
やっぱり、どことなく血の繋がりはあるみたいで。こういう所は本当にお母さんにそっくりだ。

冷ややかな溜め息と一緒に、「それなら、別にいいよ」と小さな声が零れていった。