スピカ

 お邪魔しまーす、と聞き慣れた声が耳に届く。楸さんだ。お母さんが返事をする前に、楸さんはひょっこりとリビングに顔を出した。

「満希さん、こんにちは」

視界の隅で、挨拶を交わす2人が見える。気に止めず、あたしは「合格祝い、いつがいい?」と話を進めた。

『えーっとぉ、』

何やらごそごそしているのが分かる。黙って亞未の返事を待っていると、近づいてきた楸さんが横にちょこんと座った。

「雅ちゃん、また電話?」

「そうです。見りゃ分かるでしょ」

「つまんない」

そんなの知るかよ。
顎を火燵の上に乗せ、下から恨めしげな視線を送ってくる。

『雅?』

「ああ、はいはい。で、いつ?」

亞未が『あたしは、』と口を開いたのと同時に、雑音が邪魔をし始めた。

「雅ちゃんってばー」

声が重なって、集中出来ない。眉間に出来た皺が更に深くなった。

「ごめん、聞こえなかった。もう1回」

刺すような視線を送る。
どうしてコイツはこんなにも人の邪魔ばかりするのだろうか。趣味か。趣味なのか。

『だから、あたしのいける日は』

「暇暇ー」

小さくとも、呟いた声が妙に神経に障る訳で。イライラと手に持っていたマニキュアを机に置いた。

「だから、うるせぇっつってんだろーが! 何回言わせんだ、てめぇはぁ!」

強く机を叩くと、不安定な火燵机の全体がガタンと揺れた。楸さんは肩を動かし、驚いたような目であたしを見上げた。それから、途端に、どうやらぶつけたらしい顎を押さえた。

「いって! 顎、いったぁ……っ!」