スピカ

 薄桃色の花びらがふわりと宙を舞う。ここから見える庭の枝垂れ梅が、光に当たって凄く暖かい色に見える。小さな鳥が枝に留まると、またもう1ひら、花びらが地面に散っていった。

風が運んでくるのは、暖かい匂いと出所知らずの花弁。それから、花粉。

「ふぇっ……くしゅんっ!」

あ、と思った頃にはもう遅くて、マニキュアが爪からはみ出てしまった。さっきまで順調だったのに。
諦めて鼻をかんでいると、台所にいたお母さんが呆れ顔で振り返った。

「汚いわねぇ。女の子なんだから、もうちょっとお上品にくしゃみしてよね」

そんな事言われたって、あたしが悪い訳じゃない。花粉が悪いんだ。
重たい目を指先に戻し、耳元の携帯電話をしっかりと肩で挟み直した。

『花粉症、大丈夫?』

「無理。死んじゃうかも」

あはは、と笑うと、電話口の亞未は『そりゃ大変だ』と付け足した。少し恨めしく思いながらも、あたしは話を元に戻す。

「で、大学、受かったんだ?」

『うん、そうなの。雅に、早くそれを言いたくて』

「良かったじゃん。おめでとう」

ふふ、と照れ笑いが漏れてくる。嬉しそうな亞未の顔が目に浮かんだ。

「頑張ってたもんね。じゃあ今度、何か奢ってあげよっか」

『わ、本当? やったぁ』

電話相手に、自然と笑みが零れる。視線の先を爪に集中させていると、玄関の方から戸の開く音が聞こえてきた。