スピカ

 香水が鼻を掠め、気が狂いそうになる。色で表すならば、紫色の香り。……魔性の毒だ。

毒に触れてしまわないよう、楸さんの胸板を押す。それでも、びくともしなくて、爪が服に食い込んだ。

「だから……」

細まる目が色っぽい。だけど、あたしはそれくらいじゃ折れたりしない。だって、悔しいでしょう?

「ダメっつってんだろーがぁーっ!」

鼻がぶつかり合う寸前で、ぴたりと止まった。否。あたしが楸さんを妨げたからだ。

顔と顔の間に入ったあたしの手は、ただ邪魔なだけなのだけれど、あたし自ら押し入れたもので。雰囲気はぶち壊し、と言いたいところだろうか。楸さんは怪訝そうな顔をした。

「何、この手。ひ、ひどくない……?」

押さえつけた口元から、漏れた吐息が手に当たる。

「だから、やだってば。キスなんか、させない。したかったら、煙草止めてよ」

「えぇっ? マジで言ってんの?」

「マジマジ。大マジ」

ひょろりと身体の力が抜けたのか、つんと押しただけで、楸さんの肩は後ろに下がった。

「むっ、無理! 無理無理!
 あの煙草は、無理だって!」

「じゃあ、キスなんか一生出来ないね」

「そんなぁ! 雅ちゃん……」

「そんな目で見てもダメ」

「俺、アレがないと生きていけないんだよぉ。何でまた……」

だって、悔しいもの。

勝手に勘違いしていたとは言え、楸さんがいなくならないなんて。

あたしに黙っていた、罰だ。

少しくらい意地悪したっていいでしょう?