スピカ

 せっかく火を着けたのに、煙草はすぐに唇から離されてしまった。下に向けられた指先から、真上に煙が流れていく。ジリジリと、ただ燃えていくだけの葉が、勿体ない。そんな事を考えていると、楸さんは聞き漏らしてしまいそうな声で呟いた。

「俺、期待してもいいんだよね」

迷いなんて、ない。もう、待たせたりしたくない。

コクンと頷くと、楸さんは浅はかに、視線を泳がせた。言葉を探すように、いくつか息を吐く。

「その、それって、さ……好き、とかそういう、意味?」

好き、なんて。
口に出すには、痒過ぎて。あたしにも、楸さんにも、余りに似合わない言葉だった。


“……今更純情ぶってんじゃねぇよ”

蘇ったのは、洋君の声だ。深く傷付いた言葉。多分。

だけど、今は笑いが出そうなほど、あたしにはお似合いだ。本当、笑える。

好きだなんて、言わないし、言えない。それでも、その言葉の意味はもう、分かっている。心が、身体が、知っている。

ううん。もしかすると、好きなんかじゃないかもしれない。気づく間もなく、それは違う感情に変わってしまっていたのか。

“好き”から“愛しい”へ。

そんな事に、今頃気づいたあたしは、“純情”なんかじゃない。

「今更、言わさないでよ」

「聞かなきゃ、信じらんない」

「はぁ? そんな、女々しい。信じろよ」

「言ってよ。ちゃんと聞いてるから。ほらほら、はい、どうぞ」

それでも言葉が欲しいなら、いくらでもくれてやるわ。そんな薄っぺらい言葉、あたしにはもう必要ない。

「……楸さんが好き」

恋しくなるほど。

形なんてない。形なんて、いつかは変わってしまうから。歪んでいってしまうから。

だから今は、愛おしい、それだけでいい。そう思えるようになったのは、悔しいけれど、楸さんのお陰だ。


確かなのは、欲しいものがあるという事。欲しいのは、楸さんが傍にいる未来。

言葉なんかじゃ、ないよ。


手放さずに、ずっとずっと袖を掴んでいるから……

ずっと、傍にいてくれますか?