白い息が、空気に滲んでいく。雪に慣れていないあたしは、吐息の行方を追う余裕なんてない。周りの景色を眺めては、すぐに、転ばないよう足元を確かめる。
きちんとスニーカーを履いて来たのに、それでもまだ、凍り付いた地面が時々靴を滑らせるのだ。

頭に降り積もった雪を払い落とし、口元をマフラーで隠した。それでもまだ、しんしんと雪は舞い落ちてくる。空気そのものの冷たさが、頬を刺して、痛い。

周りを見渡しても、どこも真っ白。もし、またここへ来る機会があったとしても、きっと、どこに何があったかなんて分からないと思う。

またここに来る機会が……あるだろうか。


もう一吐きすると、マフラーの隙間から白い吐息が疎らに漏れていった。何だか、魂が抜けるのを直に見ているみたい。すぅっと、呆気なく消えていく。

でも、これは魂なんかじゃない。口元が暖かくなって、身体中に熱を与えてくれるから。


遠くに、薄汚れたカラオケボックスの看板が目に留まった。足を止めると、さくりと耳障りの良い音が下で鳴った。
目を上下させ、薄くなった文字を幾度かなぞる。雪が視界をちらついて邪魔をするけれど、その名前は確かで。

ジャンパーのポケットから、1枚の紙を取り出した。