辛い時、いつも誰が傍にいてくれた?

泣ける胸を貸してくれたのは、誰?


寂しくないよう、いつだって傍にいてくれた。現実を教えてくれた。
現実の優しさを、温かさをくれた。


あたしには楸さんが必要だった。

ううん、今も必要なの。



「だから、」

言葉を続けると、お父さんは“父親”じゃなく“1人の大人”のような顔で笑った。

「迷っても、辛くなっても、その人だけは手放しちゃならんよ」

思わず泣き出しそうになった。

お父さんが、どういうつもりがあってそう言ったのかは分からないけど、今のあたしには十二分に伝わってくる。痛いほどに、その言葉の意味が分かってしまうんだ。


あたしはまだ、楸さんに何も伝えてない。伝えなきゃ、きっと伝わらない。きっと、一生後悔する。

今まで流れに任せてきたけど、そんな未来なら要らない。欲しくない。

あたしが変えなくちゃ、何も変わらないんだ。



楸さんに、会いに行かなきゃ。




「ああ、愚痴っぽくなっちゃったなぁ。こんなにも飲んだら、母さんに叱られちゃうだろうな」

真っ赤な顔でそう笑うと、お父さんはコップの中をゆらゆらと動かした。金色の波が小さな泡を飲み込んでいく。これ以上飲む気になれなくて、手元にあったビールを注いでやった。

「……お父さん、ありがとう」

そう言うと、お父さんは静かに笑った。