スピカ

「雅も行く?」

一瞬躊躇うも、自分のぶかぶかのスウェットを目にして、すぐさま、「行かない」と首を横に振った。

「お父さんと雅の分の晩御飯は、作ってあるからね。御飯注いで食べて」

何だよ、あるんじゃん、と心の中で毒づきながら、無言で返事をしておく。
蛍姉がガラガラと戸を開けると、冷たい空気が家の中まで入り込み、背筋が笑った。今日は一段と寒い。明日は雪でも降るんじゃないだろうか。2人を見送ろうと一緒に外に出ると、冷たい風が、つんと頬を抓った。

夕方の空っていうのは、移り変わるのが早いもので、少し目を離しただけで、さっきまで覗いていた夕陽がふと気づくと、沈んでいたりする事がある。それは今夜も例外ではないらしく、さっきまであった赤みがもう僅かにしか感じられない。

「雅、」と振り返ったお母さんは、声を顰めた。

「お父さんもう御飯食べてるから、一緒に食べてあげてね」

はにかみっ放しのお母さんは、子供みたいに笑い、じゃあね、と足を進めていった。夜空に溶けていきそうな2つの影は、何だかでこぼこで、不似合いで、だけど、あたしの眼には、どこか温かいものに映っていた。