今日も玄関に腰掛けている。まだ、何日も待っていない。だけど、もうずいぶん長い間待っているような錯覚に陥っていた。

待つのがこんなにも辛いなんて、今更知ったあたしは、ただの馬鹿だ。散々、楸さんや洋君を苦しめてきた報いか。


気が遠くなりそうなほど、楸さんの帰って来る気配はない。いや。もしかしたら、もう、ここは楸さんの帰って来る場所じゃないのかもしれない。元々は、赤の他人なのだから。今までだって、楸さんの帰って来る場所がここだったのかも、本当は分からないのだ。


だけど、それでも、あたしは待っている。楸さんの帰りを。

たとえ今、ここが楸さんの帰る場所じゃなくても、ここには楸さんの居場所がある。こんなにも踏み込んでおいて、「はいさようなら」なんて、あんまりじゃないか。

楸さんは、いつも狡いんだ。


ぼんやりと座っているだけで、1日が終わってしまう。早いようで、長い。

何度も零されたお母さんの愚痴も、もう、溜め息すら聞こえなくなった。会社から帰って来たお父さんは、黙って頭を撫でていくだけ。何も言わない。

そうやって、今日が終わっていく。

楸さんに伝えたい言葉が幾つも浮かんで、次の瞬間にはふっと溶けてしまう。それをただ、ひたすらに繰り返し、冷たくなった肩を抱き締める。
自分の温もりなんて、人のものに比べればちっぽけなもので。冷たくて冷たくて、凍えそうになる。

あたしには、温もりが必要だった。


抱き締めてくれる腕が、
頷いてくれる声が、

傍にいてくれる君が、必要だったんだ。