悠成君の言葉が胸に突き刺さったまま、抜けない。鋭い針みたいなものなんかじゃなくて、捩じ曲がったフックのようなものが、じわりじわりと心臓をえぐっていく。

悠成君の眼に映っていたあたしは、曖昧模糊で、臆病な逃避者にしか見えなかった。そんな自分が、時々、気持ち悪くなるほど怖くなる。

あたしは、どうすれば器用に生きられるのだろう。呆れるほどに、見当もつかない。

こんな時、楸さんなら何と言って答えるだろう。

なんて。恋愛事で悩みのなさそうな楸さんには、聞いても無駄か。きっと、答えなんて持ち合わせていないだろう。
逃避者と浮遊者は、違うから。


逃げちゃいけないと分かっていても、長年逃げ続けてきた癖は、なかなか治らない。今だって、洋君から逃げる術を3手4手、無意識のうちに頭の中で考えている。
こんな所だけは疎かに出来なくて、つくづく、自分のずる賢さを思い知らされてしまう。

逃げる、だなんて。本当に嫌な女だ、あたしは。面倒臭い状況になっただけで、あんなにも優しい人を、煩わしいだなんて考えている。
こんなだから、洋君のように綺麗にはなれなくて、浄化なんてもう手遅れで、出来る訳もない。

洋君は純粋過ぎる。

あたしには勿体ないと言いたいところだけど、そう言えるほど、あたしは綺麗な人間じゃない。

洋君といると、自分が嫌になっていく。嫌で仕方がなくなる。余計に、汚れていってしまう気がするんだ。


だから、洋君はダメだ。
きっと、これからも愛せない。

こんな勝手な言い分を、許して貰えるだろうか。


洋君が離れていくなら、引き止めたりはしない。
あたしよりも良い人なんて、星の数ほどいるのだから、その人を好きになってくれるのなら、それで良い。

ただ、まだあたしを好きでいてくれたとしたら、あたしはどうすればいいのだろう。否。どうしたいのだろう。

拒まないけど、受け入れる事もない。

そんなの、あまりに酷だ。


悩みに悩んで、頭痛までしてきた。

ほら、また逃げようとしている。
目を閉じ、耳を塞ぎ、口を噤んで。逃げるように、身体がプログラムされている。

答えを出さないまま、あたしは夢へと逃避した。