スピカ

 その眼にほんの一瞬映し出された人物を思い、少しの冷や汗と、身の毛が寄立つほどの寒気を覚える。あたしの表情を読み取った悠成君は、顔を微かに歪め、思い出したのかと尋ねた。

「……洋君、忘れてた」

そうだ、あの違和感は洋君を思わせるものだったんだ。

あんな事があって、クリスマス以来連絡を取っていない。
蛍姉が出て行ったせいか、楸さんが頻繁に家に来るようになり、1人の時間が減ったのだ。
携帯に触れる事が、格段に少なくなった。挙句の果てには、携帯が壊れてしまうという始末。

唯一の連絡手段を失ったために、洋君の存在をすっかり忘れていた。
あたしの最低さは、いつまで経っても直らないのだろうか。

どっと押し寄せてきた罪悪感に、胃が痛くなりそうだ。

「アイツが嫌なら、嫌だってはっきり言ってやってよ。洋、結構ショック受けてたから」

「嫌とかじゃなくて。今、携帯壊れてるから、来月まで誰とも連絡取れなくて……」

いや、違う。そんなの、ただの言い訳だ。
都合良く自分を守って、責められる事から逃げようとしているだけの、言い訳でしかなかった。傷付いたのは、あたしじゃないのに。

「……ごめん」

声を落とし、唇を噛んだ。
反省ではなくて、戒めにすぎない。

悠成君は良い人だから、慌てて「仕方ねぇよ」と安心させようと振る舞ってみせた。

仕方のない事なんて、ないはずなのに。