「あっ!」

メリッと生々しい音がした。物凄く嫌な予感がするも、恐る恐る目をそちらへ向けてみると、

「お、お母さん……」

「あらやだ、こんな所に携帯があったなんて」

無惨にも段ボール箱の下敷きになっているのは、あたしの携帯だ。白いプラスチックの破片と、飛び出た何だか難しそうな部品達。
さっきまで映っていた待受画面は黒く途切れてしまっている。

「ごめんねぇ、気がつかなかったわ」

「うわぁ、悲惨……こりゃ酷いわ」

「本当……どうしよう」

どうしようと言われても、どうにも出来ないでしょう。携帯電話を直せる人なんてうちにはいないし、店に持って行ったところで、直るかどうかも分からない様だ。
元はと言えば、こんな所に転がしていたあたしもあたしか。

「もういいよ、別に」

「新しいの買わなきゃいけないわね」

うん、と呟きながら、あたしは今が1月である事をふと思い出した。

「そうだ、来月でこの携帯にして1年じゃん。それなら買い換えるの安くなるよ」

「来月って……今月はどうすんの?」

お母さんは、怪訝な顔で無惨な残骸を片付けている。畳の隙間に入った破片がどうやら気になるらしい。

「んー……今月くらい我慢するわ。別にメールとかあんまりしないし」

「あんたねぇ、2月からは学校休みなんでしょ? 今月中に連絡先聞いたりしておかなくて、いいの?」

そっか。もうすぐ卒業だから、学校休みになるんだ。
でも、だからと言って、今更連絡先を聞く事なんてあるだろうか。うん。ないに等しい、と思う。

「いいよ、別に。仲良い子だけ知ってたら十分でしょ」

「雅は本当にドライねぇ。誰に似たのかしら……」

あたしは、大して仲良くない子と見せかけだけで仲良しごっこする方が冷たい奴だと思うけど。

「ま、誰も連絡してこないって。言いたい事があるなら口で言えば良いんだし」

そう吐き捨てると、掃除機を取りに行こうとするお母さんは、何だかホッとしたような呆れたような、曖昧な笑いを零した。

「雅は案外、現代っ子じゃなかったのね」