「固執するんだね。これまた意外だな」

楸さんが今現在見ているのはあたしで、鋭いその目線は現実を突き刺す。否定出来ないのは、あたしが固執している証拠だ。

何か、誰か、誰か。
変わらずにずっと傍にいて。
飽きてしまうくらい、ずっと。

「雅ちゃんも変わっていくし、蛍ちゃんや俺だって」

楸さんは話を続ける。
淡々とした話し方。それなのに、眼がそう感じさせない。悲しくも見えるし、厳しくも見える。
けれど何よりも、獲物を狙うかのようにぎらりと、闘争心を剥き出した強い眼。

「時間が経つからこそ、良くなる事だってある。変わっていく現実を見なきゃ、大切なものは手に入らないから」

詩人かよ、この馬鹿。楸さんにこんな台詞は、笑いも出ないほど似合わない。

でも。
大切なものが、欲しいものがあるんだ。きっと。
だからこんなにも現実を見ている。
垣間見せるあの突き刺すような視線。
あれが嫌いだった。

やっと今、その理由に気づくなんて。


「雅ちゃんだって、本当は分かってるんだろ?」

緩む目許と閉ざす唇。
霞めるように、流れてきた煙があたしに纏わり付く。涙腺も嗅覚もツンとして痛い。
わざとだとバレないように咳をして、抱き抱えた膝に顔を埋める。

「……煙たい」

「おっと。煙は美人に吸い寄せられるって言うもんね。あはは、ごめんごめん」

いつものようにヘラヘラ笑い、煙草の火を消す。溢れ返った灰皿にもうこれ以上余地はなくて、指から零れた吸い殻は、テーブルに虚しく落ちてしまった。

それでもなお、楸さんの匂いが消えない。


現実を見ろとばかりに、瞼の奥であの視線があたしを凝視している。