「で、どうしてついてくるんですか?」

「だって暇だもーん」

語尾を伸ばすな、語尾を。
まるで我が家のように家をうろうろしやがって。無性に腹が立つ。

「どこが……。さっきまでお母さんとお茶してたでしょ。戻りなよ。あたし、暇じゃないんです」

どんなにむかつく事を言われたって、振り向いたら負けだ。楸さんの思うツボだ。

「満希さんがダメだったら、雅ちゃんを口説くの」

「そんな事言ってないじゃん。帰れって言ったの。迷惑です」

言い返しはしないものの、ついてくる足音が止む気配はない。
ああいった軽い所が嫌いなのに、どうしてわざとそれを口にするんだ、この男は。
迷惑だって言っているのに、まだしつこくついてくるし、もはやストーカーだろ。

「ついてこないで下さい。着替えるから」

「お、ラッキー!」

「ラッキーじゃねぇよ! 入ってくんなって。マジで」

ドアを強く閉めようとしたものの、ノブの主導権を横取りされ、楸さんはまんまと部屋にズカズカ入ってきやがった。
どうしてあたしの部屋に入って来るんだ、いつもいつも。ああ、欝陶しい。

「雅ちゃん、まだ怒ってるの?」

「……ん? 何を?」

楸さんは、目を下の方でうろうろさせながら、ベッドに腰掛けた。

「昨日の事」

「昨日の事? は? ……だから、何であたしが怒んなきゃなんないんですか。意味分かんない」

「え、あ……いやぁ、……本当に?」

「本当に……? って、どういう意味?
 何かあたしを怒らせるような事でもしたんですか?
 女連れ込んでただけでしょ?」

「いやいや、うん。その、……それだけ」

あ、怪しい……。
動き回っている目が何よりもの証拠だ。

楸さんは恐る恐るあたしに目を当てた。
だけど、何だろう。さっきまで慌てていたくせに、今度は、不安げにこっちを見ている。

「何?」

「何も」

合ったまま動けずにいる視線が、どこかもどかしい。
その瞳から逃げようとするのは、一体いつからだったろう。今では、当たり前のように目を逸らしてしまう。
揺れる眼を、今日も躊躇いもなく楸さんから離した。