スピカ

 消えかけの外灯が、やけに不気味。
死神でも降臨しそう。
あんな、消えるまでの猶予なんか要らないのに。さっさと消えてしまえばいい。

「しっかし、高校生がこんな夜中まで遊んでていいの? 満希さん、怒らない?」

「別に」

満希、というのはあたしの母親だ。
若い男に名前で呼ばれたいが故に、アパートの住人は皆そう呼ばされている。我が親ながら、阿保らしい。

楸さんはニコニコして煙草に火を着けた。小さな赤い光が空を彷徨う。

「雅ちゃんったら、悪い子だなぁ、全く。あはは」

吐いた煙で、空気が霞む。

「楸さんこそ、バイトの飲み会だったんでしょ。こんなに早く帰ってきていい訳?」

「別に、いいの」

はは、と笑う度に口から煙を吐き出す。
大分酔っているのか、さっきからニタニタしっ放しだ。おまけに酒臭い。

「雅ちゃんにも会えたし」




……は?


「いや、全然ときめかないや。ごめん、楸さん」

今のは多分、いつも女を連れ込むのに使っている口説き文句か何かだろう。だけど、あたしは全くドキッともしなくて、何だか申し訳ない。
楸さんは真っ赤なままの顔で、ペチンと額を叩いた。

「あいたたたー。さすが雅ちゃんだぁ、あっはっは……」




この、女たらしが!

笑い声が妙に勘に障る。いくらけなしてみても堪えていないのが、逆にあたしを苛立たせた。