時間は全てを風化させる。是、自然の理なり。

年月を経て、風化して、深くなっていくものもあれば、薄らいでいくものもある。

傷が癒えていく。
あたしにはそれが怖い……かもしれない。


文化祭での出来事は、亞未には言わなかった。言えなかった。
文化祭が終わって、間もなく中間テストが実施され、亞未は模試三昧で忙しそうだったから。
その上、どうやら悠成君と上手くいっていないみたいで。これ以上心配事を増やすのは、あまりに酷だ。
心配性な亞未の事だから、きっとあたしが気にしていないと言い張っても、気を遣ってくれるのは目に見えている。だから、言えなかった。


それに、あれ以来あたしが泣く事はなかった。思っていたよりも、傷が薄らいでいくのが早くて、今ではほとんど思い出さなくなった。
楽しかった思い出はまるで昨日の事のように感じるのに、嫌だった事は遠い昔の事のように感じる。人間って、本当に都合が良いように出来ている。

忘れていく。
嬉しいはずなのに、どこか哀しい。


気がつけば月日は過ぎていて、ぼんやり霞んでいた進路も決まり、早くも期末テストを目前にしていた。
肌寒い季節は終わり、本格的な寒さが忍び寄る。少し乾燥したような、でもまだ柔らかさのある晩秋の風。

髪に纏わり付く匂いが冬の匂いに変わる。この匂いは、あまり好きじゃない。胸の奥底がどこか締め付けられるような感じがするから。
だけど、なぜか求めてしまう。

「ちょっと、雅。窓閉めてよ、寒い」

「あ、ごめん」

平行に動く枠が、何だか無情。
キュッと嫌な音を立て、窓が終点へ行き着いた事を耳に届ける。吹き込んでいた冷風はぴたりと止み、少しの冷たさが耳と頬に残った。

惜しむかのように窓の外へ目をやると、校庭の端にある木が、紅葉しているのが見えた。褐色の色彩が白い空と並列する。
車が通る度に葉々が揺れ、儚く散っては浮かび上がる。

ほら、だから冬は嫌なんだ。